プロフェッショナルに聞く!“生きる力”の育て方 各界のプロが語る、子育てのヒントが満載!

五輪スキーチーム 藤本豊久さんに聞く“生きる力”の育て方

トリノ五輪スキーチーム・ヘッドコーチの藤本豊久さん

本当にやりたいことをやっている──。
それだけでも、人は、輝く。
打ち込める何かを、何歳になっても持っている──。
それだけでも、人は、輝き続けられる。
 

穏やかな表情からは、想像できない、スキーへの熱い、熱い思い。
夢を持つこと、チャレンジし続けること。
そして岐路を好機に変えてきた前向きな生き方が、伝えてくれるものとは・・・・・・。


プロフィール

トリノ五輪スキーチーム・ヘッドコーチの藤本豊久さん
☆★トリノ五輪スキーチーム・ヘッドコーチ・藤本豊久☆★

<プロフィール>

藤本 豊久
青森県青森市出身
1966年6月生まれ
38歳
身長180cm

父の身長172cm
母の身長160cm


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

小学校4年生でクロスカントリースキーに出会う。スキーの名門・東奥義塾高校に進学。高校2年生のとき、インターハイのリレー競技、団体で優勝。世界ジュニア選手権に出場など戦績を残し中央大学に。インカレ、国体などで活躍したが、28歳に現役を退きコーチに。現在、富山県の川田工業(株)企画室に勤務しながら、全日本スキー連盟クロスカントリーチーム・ヘッドコーチ(3年目)を任され、来年行われるトリノ五輪に向け、選手の指導にあたっている。

トリノ五輪スキーチーム・ヘッドコーチの藤本豊久さん
全日本代表ヘッドコーチとして世界選手権で(3列目左)

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今回、お話を伺ったのは、来年2月に行われるトリノ五輪の全日本スキー・クロスカントリーチームのヘッドコーチ藤本さん。世界選手権を中心に海外転戦が続いた04−05年シーズンも終え、ホッと一息と思いきや、すぐに夏の合宿が控えているという。そんな忙しい合間を縫って、お時間を頂きました。
と、その前に・・・・・・。
少し、クロスカントリーの世界を紹介します。
長野五輪で日本中を湧かせたジャンプ。華麗なテクニックとスピードを要するアルペン。荻原健司選手が世界を舞台に戦った複合。上村愛子選手、里谷多英選手らの活躍が期待されるフリースタイル。そしてクロスカントリーも、すべてスキー競技のなかの種目のひとつです。
山あり谷ありの森のなかのコースを滑り、決められた距離のなかで順位を争う競技がクロスカントリーです。競技は大きくわけて2種類あり、フリーとクラシカルの走法があります。フリーは足をVの字に開いて滑り、クラシカルは足を平行に動かして進みます。距離は1.5kmのスプリントから50kmの長距離までとさまざま。欧米ではアルペンと同じくらいメジャーな競技ですが、日本ではまだまだマイナーです。それでも、ウインタースポーツとして、日本でも徐々に人気が出てきています。
さて、藤本さん。選手時代には果たせなかった五輪での舞台に、コーチとして挑みます。
選手、そしてコーチと世界を舞台に戦っている藤本さんに、今回は夢をテーマにお話頂きました。
朴訥と語る言葉のひとつひとつは大変、重みがあり、また優しい表情からは想像できませんが、故郷、青森の"じょっぱり"(頑固者)魂が・・・・・・。
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自然と対話する
クロスカントリーの魅力

noppo 世界中の選手との交流もあるそうですが、トップ・アスリートに求められるものはなんですか?

藤本 やはり共通するのは、とても素直な人間だということです。まるでスポンジが水を吸水するように、他人の意見をどんどん吸収し、それを自分のものにしようとしています。謙虚な姿勢で何ごとにも取り組んでいるというかんじでしょうね。

noppo 一流選手には、凝り固まったものがありそうですが?

藤本 自分の意見は、確かにしっかり持っています。競技に対しては、自分の経験から導いた答えをしっかり持っています。それを固定した観念で持っているのではなく、とても柔軟です。
たとえば、昨年の世界選手権で優勝したイタリアのピエトロ選手とは、お酒を飲んだり食事をしたりすることがありますが、こちらの話す技術論や精神論などを、すごく謙虚に聞いてくれる。やはり、トップ・アスリートとはいえ、そこまでにいろいろな過程を経ているのです。壁にぶつかることもあるでしょう。そのときに凝り固まった頭や心では、乗り越えられないのでしょう。だから、おのずと、トップ・アスリートになればなるほど人間性ができてくると思うんですよね。

noppo 自分を持った上で素直なわけですね。

藤本 やはり、強い選手は、トレーニング法、技術、栄養管理、精神論など、つきつめていますからね。ある意味、素直だということは経験からくる自信に裏付けされているのです。その余裕が、新たな道、自分を高めていくときに、必要なのでしょう。

noppo クロスカントリーは、板、ワックスなど道具に神経を遣うそうですね。

藤本 ワックスの種類も雪質、温度、天候、風の強さなどに合わせ、数えきれないほど用意します。しかも、塗るときの厚さ、幅などによって、何千種類という組み合わせがあります。スキー板も、柔らかいのから固いのまで、ストラクチャーという滑走面に細い溝の形状が違うのなど、一流選手になれば20本くらい持ち歩いて、転戦します。

noppo つまり自然との勝負になるわけですね?

藤本 そうですね。常に同じ条件ではないので。スタートしてから2時間後でも変ってしまいます。雪質や気温が下がったり、あがったり、雪が振ったり、雨が降ったりなど、そのあたりがおもしろいといえばおもしろいのですが。やっている方は・・・・・・。
フィンランドのコーチは、クロスカントリーは、車のラリーのようだと言っていました。そのコースに合ったタイヤを変えなくてはいけないし、スタッフがその場でサポートをしていくなど、確かに、似ているところがありますね。

noppo 選択ひとつで競技に大きく影響するのですか?

藤本 ワックスひとつ違うだけで負けてしまうこともあります。そういう失敗は何度もあります。たしかに気温、雪質などでワックスは分かれていますが、マニュアル通りにはいきません。選手の体調、体格によっても違ってきます。
ワックスは雪面とスキーの滑走面の間に摩擦が起きてできた水を球状にして、ぽろぽろ転がりやすいようにしているのです。上手く球状になって、それが滑走面の溝を通って外に掻きだされるのが速ければ、速いほど、いいのです。
しかし、雪や温度にあったワックスを選択するのが大変なのです。
自然の声を、五感すべてで受け取って、そこから適したものを選んでいく。まさに自然との対話が、いかにできるかが勝負のカギをにぎります。

noppo クロスカントリーの魅力とは?

藤本 まさに、自然のなかで走れることですね。大自然を相手にすると、人間の小ささがわかってくる。大変な競技ですが、それだけに達成感も充実感もあるのです。
また競技としても、来年から自転車の「ツール・ド・フランス」のように各地を転戦しながら総合順位で争う大会や、街中を舞台にした「シティ・レース」などもエキサイティングな演出も計画されています。とにかく、どんな競技かみてもらいたいですね。

トリノ五輪スキーチーム・ヘッドコーチの藤本豊久さん
北欧ではクロスカントリーが人気スポーツ。シティレースには多くの観客が。


選手からコーチへ
すべてポジティブに突き進む

noppo クロスカントリーとの出会いは?

藤本 小4のときにアルペンスキーをやりたくて。学校のスキー部に入ったら顧問の先生から、お前はクロスカントリーだ、といわれて、じゃあ辞めたということで、最初は毛嫌いしていたんです。でも翌年に、上級生がクロスカントリーを校庭で練習しているのをみて、なんだか楽しそうだなと。

noppo 実際、やってみて?

藤本 楽しかったですよね。雪のなかで、がむしゃらに走る。単純に楽しかったですね。それで小5のときに、市の大会で優勝して、もっと楽しいものだと。中学校に上がると、競技会で他県に行ったり、合宿があったり、それも楽しみのひとつでした。さらには、大会でいい成績を残せたら嬉しいし。負けたら悔しい。また悔しさがあるから、頑張れる。その繰り返しです。

noppo 選手生活が小5から27歳まで。モチベーションを保ち続けたのは?

藤本 五輪には出場できなかった。やはり、その悔しさをいつも持っていましたからね。それが競技生活を支えていたのかもしれません。また、いろんな出逢いがあり、人生の経験を豊かにしてくれた。それは、とても大きかったですね。

noppo 選手からコーチになったのは?

藤本 当時、全日本スキー連盟が26歳以上は国際大会の選手に選ばないという方針を打ちだしたのです。世界大会に出るという、それまでの夢はぷつりと消えてしまったようなものですね。まあ、そこで恨んだわけではありません。体力的にも、そろそろかなと思っていましたから。
それで京都にある企業のスキー部のコーチをやらせてもらうことになりました。その後、支援していただいている川田工業が、スキーチームを作るということで、現在、お世話になっているのです。

トリノ五輪スキーチーム・ヘッドコーチの藤本豊久さん

noppo コーチとして、どのようなことに気をつけていますか?

藤本 自分の意見を押し付けないようにしています。しかし、選手との対話は難しいですね。自分が思っていることが、どうすればいいか、よく考えています。

noppo その後、五輪のコーチとして呼ばれたのですね?

藤本 正確にはやる人がいないので、僕が・・・・・・。全日本のコーチは3年前に引き受けたのですが、その直前、会社の方針で、スキー部がなくなってしまったのです。世界で戦える選手を育てるのが夢だったので・・・・・・。
それで、しばらく東京で営業をしていたんです。スキーを忘れる努力をしながら。もう自分は、これから先、ずっと営業マンでやるのかなと。
でも、どうにかしてスキーには携わりたいと。それでスキー連盟の方とかと話をしていたんですよね。

noppo コーチをやる人がいないというのは?

藤本 連盟のほうでも、コーチになってもらいたい人がいたようですが、金銭面で折り合わなかったようで、引き受ける人がいなかったのです。
コーチがいなければ選手が困るわけで、それなら僕が、ということで。将来のことを何も考えずに。

noppo 将来を考えずというのは?

藤本 39歳という年齢ですから、会社としては、いつまでも夢を追っていないで、仕事に専念しろよ、という意味もあったと思うんです。
そのときは結婚して、子供もいましたから、守りに入らないといけない年齢なんでしょう。会社が打ちだしてくれた道だと思うんですよ。
一応、現在は会社に所属している身で、コーチをやっていますが、その後のことは、わからないですし・・・・・・。

noppo 奥様とは話し合われたのですか?

藤本 どうするかと妻と聞いてみたら、自分が好きじゃないことをする時間と、好きなことをする時間。同じ時間だけど、中身は全然違うから、好きなようにやってと、言ってくれました。
金銭的には苦労かけるし、半年は海外遠征で留守にしている。ずいぶん、わがままさせてもらっていますよ。

トリノ五輪スキーチーム・ヘッドコーチの藤本豊久さん トリノ五輪スキーチーム・ヘッドコーチの藤本豊久さん
4歳と2歳のお子さんと。半年は海外遠征で留守にしている

noppo 家族のバックアップがあってこそですね。トリノ五輪に向けて、豊富を?

藤本 選手にメダルをとってもらうのが夢ですね。またヘッドコーチとして選手だけではなく、チーム全体を考えなくてはいけない。僕の下にコーチが二人でワックスマンが実質3名。ドクターたちが2〜3名いて、組織の中で動いているので、そのスタッフと選手たちの潤滑油になれるようにがんばります。

noppo トリノ五輪のあとは?

藤本 まだ決まっていませんが、夢があります。フィンランドの大学でコーチングの勉強をすることです。生活など考えると不安な部分もありますが・・・・・・、いずれにしろ、育てた選手からメダリストが出るまで、スキーには携わっていきたいですね。

もっと夢を
そして動き出そう

noppo ところで身長がぐんぐん伸びた時期は?

藤本 中学の時に一時グンと伸びましたが、高校に入ってからも徐々に伸びてと記憶していますね。伸びている時は筋肉が付きにくく、結構細身でした。大学に入ってから伸びが止まりある程度筋肉もつくようになりました。
その頃は、飲み物は牛乳だけ。多い時で1日に2L。最低でも毎日1Lは飲んでいました。

noppo 競技で身長や脚の長さなど影響しますか?

藤本 多少、ありましたね。でも、海外の選手でも日本人に近い体格の選手でもワールドカップで優勝している人もいるので。それでも、やはり足が長い選手が有利ですよね。欧米の選手は上半身が強いですね。

noppo 栄養、睡眠には気をつけていましたか?

藤本 選手時代は恥ずかしい話ですがそれほど・・・・・・。
しかし、睡眠は多く取っていました。暇があると寝ていました。
栄養は、ビタミン関係を中心に試したことはありましたが、正直、あまり考えていませんでした。

noppo 最後に、子育てされているお母さんに一言。

藤本 海外の若者は、スポーツでも何でも自分で楽しもうというのが強い気がします。楽しいことを自分で作り出そうという気持ちなのでしょうね。
しかし、日本の子供たちは、他人に与えられたもののなかで、楽しいことを見つけているだけのような気がします。
結局、その上っ面だけしかわかっていないから、本当の楽しさをわからないまま、すぐに次のモノに行ってしまったり、同じものに流れてしまったりするのだと。
子供をのびのび育てたいとか、受験させたいなど、いろいろ、考えはあると思いますが、そこは押し付けではなく、子供が、本当にやりたいことを親が知るべきだと思います。
勉強、スポーツ、なんでもいい。人それぞれに、向いているもの、突き進むときが、あると思うのです。
そのときに、子供がやりたいと欲している、そのサインを見逃さないで欲しいですね。
親は心のアンテナを広くして、子供が何を求めているのか、理解し、手を差し伸べることが大切だと思います。
「夢しか実現しない」
この言葉が好きですね。夢を持つこと、夢を持たせることが、大事だということだと思っています。

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【編集後記】

お話を聞いているうちに、こちらが励まされていきました。何かに向かって突き進んでいる人は、そうなのです。周りの人をとても元気にさせてくれるのです。はにかんだ笑顔は和み系。明るい性格は、きっと五輪チームの潤滑油になることでしょう。

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